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東京地方裁判所 平成10年(ワ)21562号 判決

原告

東洋運輸機工株式会社

被告

柿迫大策

主文

一  被告は、原告に対し、金六三一万六三九二円及びこれに対する平成一〇年六月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを九分し、その五を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金一一九三万九六〇〇円及びこれに対する平成一〇年六月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用の被告負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  事故の発生

(一) 日時 平成一〇年六月七日午後三時一五分ころ

(二) 場所 東京都品川区南品川ニ―二―七先路上

(三) 加害者 被告が運転する普通乗用自動車

(四) 被害車 原告の所有する普通乗用自動車(メルセデスベンツE―三二〇T、ステーションワゴン、平成一〇年五月二七日初登録。乙三、六)

(五) 事故態様 被告は、脇見運転により、赤信号で停車中の原告車の後部に加害車を追突させ、被害車が損傷した(以下「本件事故」という。)。

2  被告の責任

被告には前方不注視の過失があり、原告に対する損害賠償責任を負う。

二  争点

本件の争点は損害額の算定である。

1  原告の主張

(一) 被害車の買替えに伴う損害(主位的主張)

(1) 新車購入費用(請求額 八一三万六一〇〇円)

ア 新車代金(七五八万六二五〇円)

本件事故は、被告が新車で購入し、訴外株式会社ヤナセ(以下「ヤナセ」という。)東京支店で引渡を受けた約二〇分後、約七・四キロ走行した後に発生したものであること、被害車は接待使用目的に供する予定であったが、事故車は嫌われ新車でなければならないことから、新車の買換えが必要である。右請求額は新車価格である。

イ 諸費用(五四万九八五〇円)

消費税非課税分として、自動車税(四万八三〇〇円)、自動車取得税(三四万二〇〇〇円)、自動車重量税(七万五六〇〇円)、自賠責保険料(三万八四五〇円)、検査登録料(三二二〇円)、車庫証明料(二五〇〇円)の計五一万〇〇七〇円と、消費税課税分として、検査登録手続代行費用(一万五六三〇円)、車庫証明手続代行料(一万三七五〇円)、納車費用(八五一〇円)の小計三万七八九〇円に消費税(一八九〇円)を加算した三万九七八〇円を合計した金額である。

(2) 新車買替えのために要した代車料(請求額 二八〇万三五〇〇円)

原告は、被害車に代わる新車を新規購入するために、

ア 平成一〇年六月七日から同月三〇日までの二四日間(日額二万六二五〇円で計六三万円)

イ 同年七月四日から同月三〇日までの一八日間(日額二万四一五〇円で計四三万四七〇〇円)

ウ 同年八月から一〇月まで月当たり二四日間の使用実績として七二日間(日額二万四一五〇円で計一七三万八八〇〇円)

の各期間中代車を要し、その代車料は合計二八〇万三五〇〇円である。

(3) 弁護士費用(請求額 一〇〇万円)

(4) 請求額合計 一一九三万九六〇〇円

(二) 被害車の修理に伴う損害(予備的主張)

(1) 修理費(請求額 四〇五万七一六〇円)

被害車の修理費の概算として見積もられた三六五万七一六〇円(乙四)に、損害の程度から見てコントロールユニット及びシフトリンケージ関係で更に三、四〇万円が加算されると考えられるから、修理費は計四〇五万七一六〇円である。

(2) 評価損(請求額 二〇二万八五八〇円)

修理費用の五〇パーセント相当額である。

(3) 代車料(請求額 二八二万七六五〇円)

原告は被害回復のために新車を要求するとともに新車購入までの間の代車使用も要求したが、被告(被告の契約する任意保険会社担当者及び被告代理人)は、賠償すべき損害が、修理費相当額、代車費用三〇日分(日額一万円)及び格落ち損にとどまる旨主張したため、話し合いはまとまらず、原告は、やむなく自ら新車購入手続を早急に進めて代車期間を短縮することとし、新車引渡までの一一五日間の代車料である計二一九万七六五〇円にとどめることができた。前記(一)(2)アの六三万円の代車料の請求も未払いであることから、これらの合計額である二八二万七六五〇円が代車料に係る損害となる。

(4) 諸費用(請求額 五四万九八五〇円)

前記(一)(1)イと同じである。

(5) 弁護士費用(請求額 九〇万円)

(6) 請求額合計 一〇三六万三二四〇円

2  被告の主張

(一) 主位的主張に対して

(1) 新車購入費用は否認する。

原状回復のためには修理で足り、買替えに伴う費用をもって損害とすべきではない。また、被害車が接待目的に供する予定であったことを理由とする、新車買換え費用相当額の損害は、特別損害である。

(2) 新車買替えのために要した代車料は否認する。

新車購入のために代車が必要であるとしても一四日間、日額一万円で計一四万円にとどまる。

(3) 弁護士費用は否認する。

(二) 予備的主張に対して

(1) 修理費は否認する。

修理費は三三九万二三九二円(甲三、乙一五)であり、これ以上に修理を要する箇所があるか否かは不確実である以上、それを想定した修理費の加算は認められない。

(2) 評価損は否認する。

仮に、これが認められるとしても、修理費の一割相当額である三三万九〇〇〇円にとどまる。

(3) 修理した場合には代車が必要となることは認める。

しかし、修理のために代車を使用するとしてもその必要な期間は三四日間(甲五)で、日額は、損保会社が提携するレンタカー会社における国産高級車の協定価格一万円が相当であるから、代車費用としては計三四万円にとどまる。

(4) その他の損害は否認する。

諸費用は新車買換えに伴うものである。

第三当裁判所の判断

一  被害者の買替えに伴う損害(主位的主張)について

1  車両損害の算定方法

事故により損傷した車両の損害額の算定方法としては、〈1〉事故時の車両価格と事故後の車両価格との差額相当額(いわゆる買替え差額)又はこの差額相当額に買替えに伴って発生すると認められる費用等(買替え車両を調達のために要する期間中の代車料や関連費用等)を加算したものをもって損害額とする算定方法と、〈2〉車両を原状に回復するための修理に要した費用相当額と修理に伴って発生すると認められる費用等(修理期間中の代車料等)を合算したものをもって損害額とする算定方法とが考えられ、いずれの算定方法によるかは、第一義的には、損害賠償請求に係る関係当事者間の合意によるが、しかし、その合意がない場合には、原則として、それぞれの金額を算定した上、いずれか安価な方をもって損害額とするのが、経済的な合理性の観点や、損害賠償債務者に過剰な負担を負わせるべきではないとの観点から、一般社会通念に照らして相当であるというべきである。

2  主位的主張の検討

本件を検討するに、原告の主位的主張は、新車購入費用から本件事故後の被害車の車両価格(乙四六、四七、四九によれば、一三〇万円を上回ることはない。)を控除していないものの、基本的には〈1〉の算定方法による損害額を、予備的主張は〈2〉の算定方法による損害額を、それぞれ主張するものである。

しかしながら、前示のとおり、いずれの方法によるかは、被害者たる原告の意思によって決定されるのではなく、いずれか安価な方をもって決定すべきであるところ、原告自身の主張によっても、〈2〉の算定方法による損害額が〈1〉のそれに比べて安価であることは明らかであり(前示の本件事故後の被害車の車両価格の最大値一三〇万円を控除しても同じである。)、また、被告も〈2〉の算定方法によるべきであると主張していることも併せると、原告の〈1〉の算定方法を前提とする損害額の主張(主位的主張)は、それ自体失当といわなければならない。

なお、原告は、新車の買替えを要求する基礎事情として、本件事故が被害車を新規購入、引渡を受けた直後に発生したこと、被害車が新車を好む顧客接待に供される予定であったことを主張するが、前者については、事故により損傷した被害車が、店舗内に陳列中であったり、車両運搬車で運搬中であったりする等完全な新車の状態であった場合であれば格別、既に、一般の車両と同様に公道において通常の運転利用に供されている状態であった以上、新車の買替えを肯認すべき特段の事情とまではいえず、また、後者についても、右同様、特段の事情とはいえない。

3  結論

よって、原告の主位的主張に係る損害は、その内容を検討するまでもなく、理由がない。

二  被害車の修理に伴う損害(予備的主張)について

1  修理費 三三九万二三九二円

(一) 乙四及び乙一五は、いずれも、被害車を外観から見た概算の修理見積書であるが、乙一五は、乙四の見積結果を踏まえて、更に精査した後に作成されたものであるから(証人渡邊誠、同五十嵐廣の各証言)、乙一五記載の修理見積金額(三三九万二三九二円)は、乙四の修理見積金額(三六五万七一六〇円)に比べて正確性が高いと考えられる。

(二) 乙四の四頁目下の欄外に、コントロールユニット、シフトリンケージの状況次第では更に三〇万円から四〇万円の修理費を要すると見込まれる趣旨と解される記載があり、これは、エンジン不調等の異状が疑われたことによるものであるが(乙四二の1、2、証人渡邊誠、同鹿島共和の各証言)、エンジンの異状等被害車の車両内部に異状があるのかどうか、それを修理する必要があるのかどうか、修理する必要があるとした場合どの程度の費用を要するのかについては、実際に分解等の修理作業の工程を経なければ確認することができないのであるから(右各証人及び証人五十嵐廣の各証言)、原告が現実に被害車の修理を行っていない本件では、前示修理見積金額に加算すべき見込みの修理費を損害として認定することは相当でない。

(三) よって、被害車の損害としての修理費としては、前示の三三九万二三九一円をもって認定せざるを得ない。

2  評価損 一三五万円

本件事故が被害車の新車納車直後に発生したこと、被害車の新車価格が七二二万五〇〇〇円(乙六)であるのに対し、修理したと仮定した場合の査定価格が四〇一万六〇〇〇円であること(乙四八)、前示のとおり修理の必要性までは確定できないとしても被害車の受けた衝撃がその中枢部への影響を危惧される程度のものであったこと等を考慮すると、前示認定に係る修理費の概ね四〇パーセントである一三五万円を評価損として認めるのが相当である。

3  代車代 八七万四〇〇〇円

(一) 原告の主張に係る代車代はいずれも新車買換えを前提としたものであるから採用することはできない。

(二) 原告は、現実には被害車を修理していない以上、修理のための代車代に係る損害は発生していないとも考えられるが、しかし、修理を実行すればその期間中代車の使用は避けられないのであるから、修理ではなく買換えを選択し、そのために代車を使用した原告に対しては、相当の期間中の代車代を損害として認めるのが相当である。

本件では、甲五によれば、被害車の修理に要する相当な日数は三四日であることが認められるが、この間休日を挾むことも考慮すると、修理に必要な期間、すなわち代車を使用する期間としては、三八日をもって相当と認める。

代車代の基礎日額については、甲六、乙四一各記載の料金に照らし、二万三〇〇〇円を相当と認める(乙三三の1から8)。

以上によれば、損害として認められる代車代は、八七万四〇〇〇円となる。

4  諸費用 認めない

原告の主張に係る諸費用はいずれも新車買換えを前提としたものであるから採用することはできない。

5  小計 五六一万六三九二円

6  弁護士費用 七〇万円

本件訴訟までの経緯や事案の難易度等を考慮すると、被告に負担させるべき弁護士費用としては、七〇万円をもって相当と認める。

7  合計 六三一万六三九二円

第四結論

よって、原告の請求は、被告に対し、金六三一万六三九二円及びこれに対する平成一〇年六月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 渡邉和義)

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